Time is up

途中を終わらせたいんだ。

次も、その次も、その次もまだ目的地じゃない

eiga.com

 

不覚にも、「若いっていいな」と思ってしまった。

僕はこの映画を二回観た。一回目は一人で。二回目は好きな女の子と。一人で映画館に行くことが趣味のひとつになっているものの、同じ映画を映画館で二回も観ることは滅多にない。ただ、女の子と出掛ける口実として「バクマン。を観に行こう」という話が挙がっただけである。だから二回観る機会があった。

とはいえ二回目であっても素直に面白く観ることができた。ストーリーがテンポ良く展開されていき、惹き込まれる。実際に「漫画を描いている」映像や音声も忠実に再現されており、ボーっとさせる瞬間がまったくない。あっという間に過ぎる120分間で、その感動は二回目であっても色褪せることはなかった。

バクマン。」は週刊少年ジャンプで連載していた人気漫画である。そのあらすじについて簡潔に触れておく。主人公・真城最高は、高校時代の同級生・高木秋人から、タッグを組んで漫画家を目指そうと誘われる。二人は「週刊少年ジャンプ」での連載を目指して日々奮闘しながらも、漫画を描くことの厳しさ、辛さ、恋愛や人間関係に悩み、云々する。大まかに言えばそういう話である。要するに、「ジャンプで漫画を描くということ」を中心のテーマに描かれた作品なのである。

ただ、映画では登場人物は極限まで削られており、舞台も高校3年から卒業までの一年間に敢えて絞ってある。そして実写化するにあたり、そのようなストーリー設定を選んだことは功を奏していたと思う。高校生の二人が漫画家を目指してがむしゃらに突き進む。その勢いの良さだけに焦点を絞ることができていたからだ。これは原作のように数多くのキャラを登場させていたり、高校卒業以降の話までストーリーに含めたりしていたらできなかったことだと思う。原作の面白さや醍醐味をうまく抽出してまとめ上げることに成功している。たったの120分間で。監督・脚本を手掛けた大根仁氏はおそらく「バクマン。」の原作を相当味読しており、そして純粋にあの漫画が好きなのだと思う。

映画では最終的に、主人公たちが描いている漫画「この世は金と知恵」が、紆余曲折ありながらもジャンプの人気漫画アンケートで1位を獲得する。が、週を追うごとに人気は下がり、連載打ち切りとなってしまう。二人は高校3年の一年間を漫画に捧げていたため、大学受験もしていない。卒業式の日に「俺たち、これからどうなるんだろうな」「とりあえず、無職だよな」と自分たちの将来を悲観する表情を見せながらも、高木が「ところでよ、面白いストーリーを思いついたんだけど」と真城に話を切り出して…。ストーリーはここで終わる。「これからも二人で漫画を描いていこうぜ!」という爽やかな余韻を残し、幕は閉じる。

僕はここで主人公の二人が羨ましくなった。

「若いっていいな」と思った。いや、「自分の可能性を信じて走り続けられるっていいな」というのが正確かもしれない。高校3年の一年間をすべて漫画に懸けた。なんとか結果を出すことができた。ただそれは長くは続かなかった。振り返ってみれば「何も残らなかった」といえるのかもしれない。だけど前を向いて、また走り出せる。まだまだ若いから。「次」があるのだ。全力でぶつかったうえでの失敗や挫折は、次の機会に活かすことができる。

自分には「次」があるのだろうか。おそらく探せばあるのだと思う。ただ、それはもう自分には必要ないとも感じている。「この悔しさを糧にして次は頑張る!」といった根性論が、自分の中にはもう以前ほどないからだ。

僕は就職活動が思うようにいかず、来年の春から働く職場にも正直満足していない。だけどその一方で、「まぁ俺ってこんなもんだよな」と自分の状況を素直に受け容れている潔さがある。大学受験のときは違った。「あんなに努力したんだから、この悔しさをばねに大学では勉強を頑張ろう」と、志望度の低い大学に進学することになった自分を奮い立たせ、悔しさの矛先を次のステージである「大学生活」へ向けていた。潔さのかけらもなかった。悔しさを背負い続けて、「いつか花開き報われる自分」を信じ続けていた。

これが「大人になる」ということのひとつなのかもしれないな。サカナクションの「新宝島」が流れるエンドロールをぼんやりと眺めながらそう思った。自分の身の丈を弁えて、黙って噛み締めること。「バクマン。」の二人は、連載が打ち切りになるも、自分たちの可能性を信じ続けている。清々しい。

そのひたむきな姿勢は、どこか懐かしさを感じさせてくれる。

羨ましくて、すこし寂しい。